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青森家庭裁判所 昭和33年(家イ)49号 審判

申立人 佐野ちよ(仮名)

相手方 佐野富太郎(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

申立人と相手方との間の二男邦昭(昭和十六年三月○○日生)の親権を行う者を申立人とする。

理由

申立人は、相手方を婿養子に迎えて夫婦となり、昭和十九年頃、夫に従い子供を連れて樺太に移住した。そうして終戦後の昭和二十二年五月頃樺太から引き揚げることになつたところ、当時申立人がソヴィエトの病院で助産婦の助手を勤めて居た関係上、夫である相手方と一緒に引き揚げることを許されなかつたので、やむなく居残ることとなり、相手方が二男邦昭(昭和十六年三月○○日生)を連れて本籍地に引き揚げた。しかし申立人はその後も引き揚げの機会を待つて居たけれども遂にその甲斐なく昭和三十三年一月四日漸く本籍地に引き揚げて来たところ、相手方は既に他の女を迎え入れ同棲生活をして居たので、申立人は相手方と夫婦生活をすることもできず、仕方なく現住所に落ち着き○○市役所の生活扶助を受けながら漸く暮して居る状態なのに、相手方は引き揚げ後約三年間申立人の妹米川かよ夫婦等の援助を受け、養母よし、長男義男、長女あさ子、二男邦昭等と暮して居り、又死亡した養父佐野三郎の財産を独りで相続し相当な生活をして居るに拘らず申立人を顧みないから、この際申立人は相手方と離婚することを決意し、当事者間の二男邦昭の親権者を申立人と定め相手方が申立人の父三郎より相続した別紙目録記載の不動産を申立人に分与するように調停して貰いたく、この申立をした次第であるというのである。

そこで当裁判所は、昭和三十三年四月二十八日から昭和三十四年一月二十七日まで九回に亘り調停委員会を開いて当事者双方に対し種々調停を試みたところ、当事者双方とも離婚することを希望しながらも、離婚に因る財産分与の点で折り合わず、申立人はその実父三郎より相続した相手方の財産の二分の一を申立人に分配せよと要求し、相手方又右要求には応じられないと応酬し、当事者双方は互に自分の主張を固執して譲り合わないために調停が成立するに至らなかつた。

そこで審案するに、記録中の戸籍謄本、調停委員会における当事者双方の陳述に家庭裁判所調査官戸館長逸の調査結果等を総合すると、相手方は昭和二年○月○○日佐野三郎及びその長女ちよ(申立人)の婿養子縁組婚姻届出を済して右三郎の養子となると同時に申立人と夫婦となつて同棲し、当事者間に昭和二年十一月○○日長女あさ子、昭和八年三月○日長男義男、昭和十六年三月○○日二男邦昭が生れたものである。そうして当事者夫婦は昭和十九年頃長男を申立人の母よしの許に残し、長女及び二男を連れて樺太に移住し、相手方が石炭積荷役の人夫等をしながら生活して居たが、終戦となつたので昭和二十二年五月頃内地に引き揚げる際、相手方は長女と二男を連れ残留させられた申立人と別れて本籍地に引き揚げたものであること、相手方は昭和二十年七月○○日前戸主である養父佐野三郎(申立人の実父)の死亡に因り家督相続をして同人の遺産全部を相続したものであつて、別紙目録記載の不動産もその相続財産であること、養母佐野よし(申立人の生母)も昭和三十二年五月○○日死亡したこと、相手方は本籍地に引き揚げた後養父より相続した家屋に住み若干の田畑を耕作しながら生活し申立人の引揚を待つて居たがその消息を知り得ないので昭和二十四年頃遂に伊藤フミと内縁の夫婦関係を結んで同棲したが、その後間もなく同女と別れて更に昭和二十六年頃近藤しず(大正五年五月○日生)と夫婦約束のもとに同棲生活を始めて現在に至り、その間昭和二十七年九月○日秀雄が生れ、右しずの連子敏子(昭和二十三年一月○日生)を含めて現在四人暮らしであること、又他方申立人は相手方と別れて抑留生活を続けて居たが、昭和三十三年一月五日頃漸く引き揚げて来たものであつて、その引き揚げの際知り合つたという朝鮮人李敬鳳(当四十三年)と申立人の肩書住所地に間借して現に同棲生活を営み居るものであること及び以上のように当事者双方とも既に配偶者以外の異性と恰も夫婦の如き同棲生活を営み居るので離婚することを互に希望しながらもなお申立人は相手方が前戸主佐野三郎(申立人の実父に当る)より相続取得した財産の半分を申立人に分配することを条件に離婚したいと強く主張し、又相手方は無条件に離婚することを主張し(なお相手方は相続した宅地の一部と金拾弐万円程度ならば申立人に分与すると申出たけれども申立人がこれを承諾しなかつたので、その後右申出を撤回した)互に各自の主張を固執するのみで譲歩し合わなかつたことは前記の通りである。しかし前段認定の実情及び調停の経緯その他一切の事情を考慮すれば、申立人と相手方とを離婚させるのが相当であると認め、調停委員原子よしほ及び同田沼敬造の意見をも聴き申立人と相手方とを離婚させることとし、又当事者間の二男邦昭(昭和十六年三月○○日生)の親権者については、同人が既に相手方の許を離れ生活して居るのみならず、相手方は妻以外の女と同棲し、同女の生んだ子供たちを養育して居る現状等を考え合せれば、二男邦昭に対し親権を行う者を申立人と定めるのが相当である。なお申立人は、本件離婚請求の調停に併せて離婚に基く財産の分配をも請求して居るところ、財産分配に関する事件は、家事審判法第九条第一項の乙類審判事件に属しこの事件について調停が成立しない場合には、調停申立の時に審判の申立があつたものとみなされる(家事審判法第二十六条第一項)結果、この点についても審判しなければならないのであるけれども、民法第七百六十八条第二項の規定による財産分与及び民法附則第二十八条の規定による財産分配の各請求は、いずれも離婚の成立を前提とするものであり、しかもこの種の事件には家事審判法第二十四条第一項が適用されないのであるから、前記離婚の審判と同時に審判するのは妥当でない。

そこで先ず離婚請求の点につき審判し、これに対する当事者の意向を見極めた上、財産分配の請求について更に審判するのを相当と考え、家事審判法第二十四条第一項に従い主文のように審判する次第である。

(家事審判官 坪谷雄平)

別紙目録略

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